風鈴作りは火から始まる。
ハルは朝五時に起きた。翔太も起こされた。「職人は朝が勝負だよ。手が一番素直な時間だ。」
工房の窯はガスと炭を併用する旧式のもので、点火から適温になるまで四十分かかった。その間にハルはガラスの棒を選び、鉄片を計り、今日の作業を頭の中で組み立てた。
「見てな。」
ハルがガラス棒の先端を窯に差し入れた。先端が飴色に溶け始め、やがてオレンジ色の塊になった。ハルはそれを引き出し、吹き竿の先につけ、唇をそっと近づけて、息を吹き込んだ。
ガラスの塊が膨らんだ。風船のように——ではなかった。風船は均一に膨らむが、ガラスは生き物のように不規則に動いた。ハルの息の強さ、竿を回す速度、重力との駆け引き。すべてが一瞬ごとに変化し、ハルの手はその変化に応え続けた。
「これが風鈴の本体になる。」完成した透明な球体は、朝日を受けてかすかに虹色を帯びていた。「次は舌——音を出す部品だ。」
舌は鉄製だった。小さな短冊状の鉄片を金床の上で叩いて形を整える。ここが風鈴の音を決める最も重要な工程だと、ハルは言った。
「鉄は叩くと硬くなる。硬くなると音が高くなる。どこをどれだけ叩くかで、音色が全部変わる。」
ハルが小さなハンマーで鉄片を叩いた。カン、カン、カン。リズミカルに、しかし毎回微妙に力加減を変えて。五分ほど叩いた後、ハルは鉄片をガラスの球体の中に吊るした。
風が吹いた。鉄片がガラスの内側に触れた。
——リィン。
その音を、翔太は一生忘れないだろうと思った。澄んでいて、遠くて、どこか悲しくて、でも最後にほんの少しだけ温かい。夕暮れの空の色を音にしたら、きっとこんな音がする。
「やってみな。」ハルが吹き竿を翔太に渡した。
最初の試みは惨めな失敗だった。息を強く吹きすぎてガラスが薄くなりすぎ、竿を回す速度が遅くて重力に負け、歪んだ涙滴型の塊ができた。ハルはそれを見て笑わなかった。
「上出来だよ、初めてにしては。」
「嘘でしょ、全然ダメじゃん。」
「形はダメ。でも息の入れ方に迷いがなかった。ガラスは正直だから、吹く人の心がそのまま出る。迷いのない息は、初心者にしては珍しい。」
翔太は自分の手を見た。指先がかすかに震えていた。緊張ではなかった。興奮だった。ガラスが息を受けて膨らむ瞬間、何か——言葉にできない何かが、指先から腕を通って胸の真ん中に届いた感覚。
「ばあちゃん。」
「うん?」
「もう一回やっていい?」
ハルは頷いた。その目の奥で、何かが灯ったのを翔太は見た。それが何なのか、そのときはまだわからなかった。後になって思えば、あれは希望だったのだ。自分の技術を、自分の火を、受け継いでくれるかもしれない人間がここにいるという、静かな希望。
翔太は吹き竿を構え、窯に向かった。朝の光が工房に満ち、壁の風鈴たちが祝福するように揺れた。
二回目の泡は、少しだけ丸かった。
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